このページでは、登山の服装を選ぶときにまず理解しておきたい基礎知識と、登山ウェアの一覧をまとめています。アンダーウェアからアウター、帽子から靴下まで、どんなウェアをどう選べば良いか、それぞれの服装にはどのような特徴があるのか、など概要を初心者向けに整理して説明します。
登山初心者は服装に最初からお金をかけすぎない
初心者のみなさんは最初から登山服を全てそろえている人は少ないでしょう。また、いきなり北アルプスや富士山に登るのではなく、最初は高尾山など、近郊で交通のアクセスも良く、コースもそこまで厳しいものではない山に登る方が多いのではないかと思います。
まだ登山用のウェアが少ない場合は、最初から高機能な登山用の服装をそろえるのではなく、なるべく速乾性が高く動きやすいような普段着やスポーツウェアで代用しても問題ありません。
最初に高いお金を出して買ったとしても、「登山ブームで初心者ながら一式服装をそろえたが結局あまり登山にいっていない。。。」「よくわからずに買ってはみたものの、オーバースペックだった。」といったことが起こりえます。
初心者の方はいくつかの登山の経験を積む上で、登山を継続的にする見込みがあるか、登山中にどのような体温や気温の変化があり、どのような服装であれば快適で動きやすいか、これは必要だ、これはあったら便利だ、などといった点について理解が深まってくると思いますので、ウェアの選び方もより正確な目で選択できるようになります。
知識と経験をふまえて、より詳しいショップの店員さんと一緒に選びながらアイテムを増やしていくと後悔が少ないので、じっくり選んでウェアを増やしていきましょう。
登山の服装の基本は重ね着
山は平地と比較して朝晩と日中の気温の差が大きく、日差しや風の有無によっても大きく体感温度が変わるため、体温調整が必要な場面が多く発生します。
登山用の服装は暑いときに汗をかいた場合は早く乾き、雨が降っても外からの水分は通さず、寒いときは保温性が高い、といったような体温調整の機能が充実しています。
重ね着を正しくすることで体温調節がうまくいくため、一日の中で気温の差が大きく発生したとしても、快適な登山が楽しめます。重ね着は「ベースレイヤー」「ミッドレイヤー(ミドルレイヤー)」「アウター」の3つのレイヤーが基本になります。
最近は、ベースレイヤーの下にドライナミックメッシュなど、肌から汗を引きはがす「ドライレイヤー」を着用することがトレンドになっています。
ベースレイヤー
ベースレイヤーは直接肌に接する形で一番内側に着る服装を指し、アンダーウェア、下着がベースレイヤーに該当します。歩行中にかいた汗を素早く吸収し外部に拡散することで、体温が奪われることを防ぎます。
化学繊維はどんどん開発が進んでいて、水分の通り道が内側から外側へ一方通行になっていたり、内側の表面に凹凸をつけることで皮膚との接地面積を最小化することでよりベタつきを抑える働きがあるなど、非常に高性能であるため、登山用ウェアを普段使いする人も多いです。
特に夏場はこのような吸水速乾性が高い化学繊維がおすすめです。一方、ウールは汗や水分を吸収すると発熱する特性を持っていますが、冬場はこの性質を効果的に生かすことで保温性を高めることができます。
綿も同じように水分を吸収して発熱性質を持ちますが、速乾性がかなり低いため登山で着用すると汗冷えの可能性が高いです。汗で冷えると低体温症になり動けなくなる可能性があるため登山において綿のインナーは厳禁です。
登山の服装としておすすめのベースレイヤーは以下の記事を参考にしてください。
肌から汗を引きはがして、肌の表面をさらっとドライに保つためのドライレイヤーはこちらを参考にしてください。
ミッドレイヤー(ミドルレイヤー)
ミッドレイヤーにはベースレイヤーから発生する汗を発散させる役目と、保温の役目がある服装になります。汗や湿気を外部に逃がすために通気性が良いシャツやジップシャツ、化繊インサレーションなどから、保温力が高いフリースやダウンジャケットや、ソフトシェルなどの風と雨から身を守ってくれるものまで様々なタイプの服装が存在します。
ミッドレイヤーはアウトドアブランド各社が様々な場面に応じた幅広い商品ラインナップが存在します。同じカテゴリの服でも値段やブランドによってそれぞ微妙に性質が異なるので、買う時はカテゴリを決めてかからずに実際に使用する場面に応じて個別にウェアを選択しましょう。
たとえ通気性・透湿性が高いミッドレイヤーを着用していたとしても、行動中に汗を大量にかくような状況では着るべきではありません。汗をかく場合はアンダーウェアのみで行動し、休憩中にミッドレイヤーを羽織るなど、状況に応じて脱いだり着たりすることでうまく体温調整を行ってください。
何度も脱いだり着たりすることが想定される場合は、コンパクトにたためるようなウェアや、着ているときにボタンやジッパー等で体温調整をしやすいモデルを選ぶことがポイントです。
合わせて登山リュックもミドルレイヤーを入れたり出したりしやすいポケットがあるものを選ぶと相性が良いでしょう。
時期によってミッドレイヤーの選択肢が大きく異なるので、秋冬であれば保温性重視、春夏であれば通気性や透湿性重視、寒暖の差が激しいことが想定される場合は温度調節がしやすい服装を選択するとよいでしょう。
更に詳しいミッドレイヤー(ミドルレイヤー)の基礎知識については、こちらに詳細をまとめています。
以下に代表的なミッドレイヤー(ミドルレイヤー)についてそれぞれ詳細を説明しています。
フリース
フリースの特徴は適度な防寒性とやわらかな素材の肌触り動きやすさにあります。通気性が高い反面、防風性が低いデメリットがあります。また、起毛素材のためかさばるのが難点です。ダウンジャケット(インシュレーション)と比較すると動きやすく保温力も適度なため行動中に着用したい場合に適しています。最近はマイクロフリースと呼ばれる毛が短いフリースがコンパクトで保温性が高く人気です。
ダウンジャケット(インシュレーション、インサレーション)
登山においてインシュレーション(インサレーション)とは羽毛や化学繊維を詰めたダウンジャケットを指します。外の寒い空気をシャットアウトして内部で暖かい空気を溜め込み、フリースよりも高い保温性を発揮します。また、フリースと比較してコンパクトに収納できる点がメリットです。ミドルウェアの中で最も保温性が高い服装なので雪山や休憩時の使用に適しています。
ソフトシェル
アウターであるハードシェルは高い防水性や防風性を持ちますが、ソフトシェルは防水性や防風性を落とし、その分動きやすさや透湿性を高めたシェルになります。アウターとしても、ミッドレイヤーとしても使われる万能選手です。フリースとインシュレーションと比べると保温力は最も低いですが、透湿性が高いので行動中の着用に最も適しています。
ウインドシェル
ウインドシェルはウインドブレーカーやライトシェルとも言いますが、防風性能に特化したミッドレイヤーです。ソフトシェル以上にペラペラで撥水性もソフトシェルよりも低くなります。超軽量で超コンパクトになるものが多く、登山だけでなく自転車や旅行にも使えます。
登山用シャツ
登山の服装の中で山シャツの一番の特徴は「デザイン性」です。山の中だけでなく、移動中の街中でも他の服装と比べて最も違和感がない服装です。おしゃれを楽しみたい人、いかにも登山という服装が好きでなはい人におすすめです。
他のミッドレイヤーと比べると防寒性や防風性は低く、ジッパーで無段階に可能な他のウェアと比べるとボタンの開け閉めによる温度調節は使い勝手はいいとは言えませんが、夏山であまり条件が厳しくない山であればおしゃれを楽しみながら山登りすることができます。
アウター
アウターは風や雨から体を守ってくれることを目的としています。また、着たまま行動することが多いため内部から発生する汗の透湿性も重要です。アウターを常時着用するのは秋冬で、特に冬は雪や氷の中を進む場合を想定して、防風防寒性だけでなく、丈夫で耐摩耗性が高い生地が使用されています。
気候条件にもよりますが、ミッドレイヤーで紹介したソフトシェルやウインドシェルなど薄手の軽量で動きやすいのものをアウターをして使う場合もあります。
レインウェア
アウターの段落で紹介しますが、春夏の暖かい気候で休憩時もミッドレイヤーで十分なような場合はレインウェアをアウターとして持っていっても問題ないでしょう。
ただし、レインウェアは通常は持ち運んで雨が降った時だけ一時的に着用することが想定されているため、軽量コンパクト化を目的としてベンチレーターなどが省略されています。常時着用していると蒸れて不快になることもあります。ハードシェルの耐久性やソフトシェルのストレッチ性などもないので常時アウターの代役としては使えないことを頭に入れておきましょう。
登山の服装は脱いだり着たりの繰り返し
繰り返しになりますが登山の服装は重ね着が基本です。ウェアを購入する際は重ね着しやすい薄手の服を選ぶと使い勝手がよいです。
新しいウェアを買い足す場合は、既に自分が持っているウェアと重ね着することを考慮して購入しないと、袖が通りにくかったり、体を動かしにくかったりすることが起こります。
また、歩行中は気温や体温の状況に応じて脱いだり着たりの繰り返しで体温を調整します。寒さを我慢すると体力低下につながりますので、こまめな体温調整が重要です。
休憩で足を止める場合はすぐに上着を羽織るぐらいがちょうど良いでしょう。何度も脱いだり着たりすることを想定して、コンパクトに収納できるウェアを選択し、ザックの取り出しやすい場所に収納しておきましょう。
下半身は動きやすい服装
下半身は行動中にストレスを感じないためにも、もも上げや屈伸をしても突っ張らず動きやすい服装を選びましょう。歩行中や休憩中に岩や木に擦れたり、土で汚れたりすることがあるので、汚れにくく擦れてもすぐに破けない丈夫な素材を選ぶこともポイントです。
また、上半身と同様に吸湿速乾性も大事です。最近はタイツにスカートや短パンを重ね着するスタイルの人も多く見かけます。
タイツはスポーツ用ではない厚手のものを使用して山に来ている人を見かけることもありますが、速乾性が低く汗に弱いのでおすすめできません。登山やスポーツ用の機能性が高いタイツを着用するようにしましょう。
怪我や虫から肌を守るという観点で半ズボンよりは長ズボンのトレッキングパンツやジャージがおすすめです。ジーンズは速乾性が低いためNGです。
靴下
登山の服装で意外と重要なアイテムが靴下です。厚手でクッション性が高いと靴擦れを防いで疲労感が少なくなり、生地の防臭性と速乾性が高いと蒸れと臭いを防ぐことができます。他の服装と比べてお金がかからないウェアの割に効果が大きいので是非最初に購入しましょう。
帽子
日よけや怪我の防止、防寒などに役立つのが帽子です。春夏秋やハットやキャップ、冬はビーニーがおすすめです。いくつか持っていると使い分けできて便利です。
グローブ(手袋)
怪我の防止や防寒対策にはグローブ(手袋)の着用がおすすめです。グローブを持っていない場合は冬の防寒用でなければ軍手でも代用がききます。
ゲイター(登山スパッツ)
富士山登山の下りなど小石が登山靴と靴下の間に入ることを防いでくれるのがゲイター(登山スパッツ)です。トレイルランニングでも使います。冬の雪山では雪の侵入を防ぐ為にゲイターを着用します。
サングラス
特に夏場全般や富士山登山など標高が高く紫外線が強い山で活躍するのがサングラスです。レンズカラーによって目から入ってくる風景の印象が異なるため、気分を変えることもできます。
登山の服装に使われる主な素材
綿(コットン)
乾いている時の肌触りは良いですが、水分を吸収すると乾燥するまでに時間がかかるのが特徴です。服から蒸発する際に体を冷やすので、登山には全く向いていません。体温を下げてくれて紫外線を通しにくいので、登山ではなく常夏の楽園向きの素材です。
ウール
綿と比較すると速乾性があるため登山の服装に向いている素材です。ウールは吸湿性が高く、湿気を吸収して発熱する吸着熱を発生させます。かつ、保温性がある(吸湿発熱)点も登山の服装に適しているポイントです。特に、保温性が求められる冬山に適しています。
化学繊維と比べると、汗をかいたときのひんやり感が少ないです。欠点は、肌触りがチクチクする点と、繊維の隙間が大きいのでかさばる点があります。ウールの中でもメリノウールは肌触りが良いため、肌着として人気があります。
ポリエステル
ポリエステルは速乾性に優れています。吸湿性は綿やレーヨンに比較すると低いです。着心地も良いのでインナーに適しています。また、フリースも実は極細のポリエステルでできています。極細の繊維の間に空気をためることで保温性能を高めています。
ナイロン
ナイロンは耐熱性、難燃性、耐薬品性、耐寒冷性、耐磨耗性という特徴を持ちます。防風性や耐久性が高く、主にアウターで使用されています。ポリエステルと比較すると若干軽いので、グラム単位で装備の重量を調整する場合はナイロンに軍配が上がります。
レーヨン
レーヨンは吸水性(吸汗性)と吸湿性に優れています。速乾性は綿と比較すると高いのですが、水分を多く保持する分、ポリエステル等の化学繊維に比較すると速乾性が低くなります。
登山の服装は臨機応変に
寒暖の変化が大きい山では、体温調整しやすい服装が大事です。登山初心者の人しっかり知識を頭に入れた上でウェアを選択しましょう。服装と合わせて、山に持って行く持ち物についても登山初心者のための持ち物リストを読んで確認しておきましょう。
春夏秋それぞれの時期の登山の服装について、ポイントを以下にまとめていますのでこちらも参考にしてください。