登山のためのトレーニングは、自分の体力と目的の山や登山コースの難易度によってトレーニングの強度と内容が異なります。今回は快適な登山のための考え方と、効果的なトレーニング、目的別のトレーニングのステップについてまとめました。
快適な登山のためのトレーニングの位置づけ
なるべく山でバテずに快適に歩くためには以下の基本的な2つの考え方があります。
①下界での事前準備
今持っている身体能力を、日常のトレーニングやコンディショニングによって改善し、山での疲労を防いだり、パフォーマンスアップをはかるという考え方です。
- 持久力を鍛えるトレーニング
- 筋力を鍛えるトレーニング
- ストレッチ、マッサージ、入浴、睡眠
- 食事、行動食・サプリメント
②山の中での対処
服装や実際に歩いている時や休憩時の行動でなるべく疲労を少なくるという考え方です。
「山の中での対処」はもちろん重要ですが「下界での事前準備」があってこそ、行動中の対処がより効果的にになります。ここで、山の中での対処法について詳細を見ていきましょう。
・疲労しずらい歩き方、休み方
早く歩きすぎると無酸素運動になるためすぐに疲れてしまいますが、ゆっくり歩くと多くの時間を消費するため、それはそれでカロリーを余計に消費してしまいます(人間は立っているだけでもカロリーを消費するため)。
疲労しにくい歩き方とは良いペースで歩くことです。人によって異なると思いますが、一つの目安は心拍数です。
最高心拍数は本来個人差があり、「10分前後で疲労困憊で動けなくなるような運動をした場合の最後の1〜2分の心拍数」を測ることで、その人の最高心拍数を算出することができます。
「220 - 年齢」はあくまでも一般的な最高心拍数の出し方の一つです。例えば30歳の方であれば最高心拍数 = 220 - 50 = 170となります。
一般的に最高心拍数の75%以上の心拍数で行動を続けると疲労するとされています。例えば50歳の人であれば、170 × 75% = 127.5となり、127拍以下で行動すれば疲労しにくい、ということになります。
ただし、普段からトレーニングしている人は最高心拍数が高いため、計算式以上の心拍数で行動しても疲れないことになります。
計算式で出した心拍数は目安として使用し、測定しながら体調を判断し、楽であればより速く歩くことを試してみてください。その日の体調にもよりますので、目安の心拍数を参考値として自分のペースをうまく探ってみてください。
エネルギー・栄養補給
普通の人が荷物をもたずに普通に山道を歩いた場合の消費カロリーは、以下の式になります。
例えば、体重60kgの人が8時間歩くと、消費カロリー = 60 × 8 × 5 = 2,400kcalとなります。荷物が重かったり、勾配が急であればこれ以上のカロリーが必要となります。
とはいえ、消費カロリーの全てを食事で摂取する必要があるわけではなく、半分は体内の脂肪を燃焼することで消費カロリーを捻出することができます。
つまり、食事で必要なカロリー = 2,400 ÷ 2 = 1,200kcalとなります。
こちらも個人差があり、普段からトレーニングしている人は脂肪を燃焼しやすい体になっているため、食事で必要なカロリーは消費カロリーの半分以下の1/3であったりそれ以下でも問題ない人もいます。
エネルギー補給のための携行食やサプリメントの詳細は「登山の行動食」を参考にしてください。
登山はエネルギー消費が多いため、縦走のように連続して何日も登山を行うと確実にエネルギーの収支はマイナスになります。
ただし、短期間で急速に脂肪が減った場合は日常生活に戻ると元の体重に戻ることが普通です。これは人間の体が大きな変化が起こった時に元に戻ろうとする(=元の体脂肪率を維持しようとする)からです。
単発の登山による短期間のダイエットは難しい、というわけですね。もちろん、継続した山登りと日常の節制が伴えば、間違いなくダイエットにつながります。身体に変化を起こそうとする場合は、継続したアプローチが必須です。
水分補給
普通の人が荷物をもたずに普通に山道を歩いた場合の脱水量は、以下の式になります。
例えば、体重60kgの人が8時間歩くと、脱水量 = 60 × 8 × 5 = 2,400mlとなります。エネルギーの式と同じ形ですね。
運動生理学では脱水量と同じ量の水分を摂取することが好ましいとされていますが、体重の2%までの脱水であればパフォーマンスは落ちないとされています。
60kgの人であれば、60kg × 2% = 1,200g(=1,200ml)となり、1,200ml摂取すればよいことになります。
汗の量もエネルギーと同様にトレーニングしている人は少ない汗の量で体温調節が可能であるため、脱水量が少なくなり摂取する必要水分量も少なくてすみます。天候や荷物量、勾配にもよるので十分な水分を取るようにしましょう。
水分補給はナルゲンなどの水筒でもいいですが、ハイドレーションを使うと行動中でもスムーズに水が飲めます。
サポート用品
山の中での対処は、適切なサポート用品を使用することによって、疲労を軽減することができます。登山は下半身を酷使するスポーツです。下半身をサポートする着圧(コンプレッション)機能を持つ登山用タイツの活用については以下の記事を参考にしてください。
また、下半身をサポートにはトレッキングポール(登山ストック)も効果的です。こちらも参考にしてください。
登山に効果的なトレーニング
上記のとおり、登山はカロリーや水分がどんどん減って、常に不足した状態で長時間筋肉を使いながら有酸素運動するという特殊なスポーツです。
登山のための総合的なトレーニングは登山でしかできません。下界での事前のトレーニングは要素を分解した部分的なトレーニングとなります。
各トレーニングの種目の長所、欠点、改善策
種目 | 長所 | 欠点 | 改善策 |
---|---|---|---|
ウォーキング | 気軽に始めることができ、持久力が身に付く | 登りや下りに必要な筋力が身に付かない | 坂道を多く取り入れる |
ジョギング | 短期間でウォーキング以上の持久力が身に付く | いきなり始めると膝や腰を痛めやすい。 | 他のトレーニングが物足りなくなってから始める事 |
階段の上り下り | 気軽に始めることができる | 日常生活でエスカレーターを使うところを階段にするだけではトレーニングにならない | 15分間連続して行う。 |
自転車 | 登りのトレーニングになる | 平坦な道ではトレーニングにならない。坂道でも下りはトレーニングにならない。 | 必ず坂道で実施する。下りのトレーニングは別メニューを取り入れる。 |
水泳 | 心肺能力が高まる。膝や腰に優しい | 足腰の筋力トレーニングにならない | 足腰の筋力トレーニングは別メニューで実施する。 |
筋肉トレーニング | 足腰の強化ができる。 | 飽きやすい | 目標をうまく立てて継続する |
登山のためのトレーニングのステップ
photo by Altug Karakoc
登山のためのトレーニングのステップは以下の3段階が存在します。自分がどのレベルまで必要かどうかは、目的の山の難易度によりますので、考え方を理解した上で運動強度を調整しましょう。
①障害を予防するためのトレーニングのレベル
どんな低い山に登る場合であっても全ての人に必須の水準になります。登山で最も多い障害は膝関節痛で、2番目に多い障害は腰痛です。
膝と腰の関節痛については下界で部分的なトレーニングをしないと回避できない障害です。膝関節痛に対してはスクワット、腰痛に対しては腹筋が有効な筋肉トレーニングです。
また、機能性タイツを着用することで筋肉をサポートすることも可能です。詳しくは以下の記事を参考にしてください。
登山における膝の痛みの原因や予防方法についてのまとめはこちら。
②山を快適に歩けるようにするためのトレーニングのレベル
これは普段あまり登山をしない人が山でバテないようにするためのトレーニングです。月に1回しか行かないような人であれば、山で快適に歩けるようにするためには下界で身体能力を維持するトレーニングが必要になります。
上記の表にも記載していますが、日常の階段の上り下りやウォーキングでは登山に必要な負荷が不足しがちであるため、意識して負荷をかけるように心がけてください。
③積極的にパフォーマンスを上げるためのトレーニングのレベル
これは高い目標に向かって、自分の身体能力を向上させる必要がある人のためのトレーニングです。
登山のトレーニングは登山が総合的で一番実戦的なトレーニングになりますが、途中で疲労困憊してしまっては下山できなくなってしまうため、登山によるトレーニングでは限界を超える運動強度を得る事は難しいです。
そこで、30分間程度のインターバル運動で大きな負荷をかけるような運動を下界で行うことが効果的になってきます。体力や筋肉の限界まで負荷をかける運動を繰り返すことで、肉体の限界上げるトレーニングです。
登山のトレーニングは無理のない範囲で
登山を楽に快適にするためには、体力や筋力、歩行技術、適切な服装や道具やサポート用品、栄養補給や水分補給の総合的なアプローチが必要となります。目的と体の状態に合わせて、無理のない範囲でトレーニングを取り入れてみましょう。
また、トレーニング後はプロテインの摂取がおすすめです。筋力を鍛えることは快適な登山につながります。