重ね着が基本の登山の服装の中で、アンダーウェア・インナーは肌に直接触れる重要なウェアで、ベースレイヤーとも呼ばれます。本記事ではアンダーウェア・インナーについて求められる機能や素材の説明、おすすめの商品について説明します。
アンダーウェアは登山ウェアで最も重要
登山に限らず、人間は汗をかくことで体温調節を行っています。実は人間は平常時も絶え間なく皮膚の表面から水分が蒸発していますが、運動などによって皮膚からの蒸発だけでは体温調節では補いきれない熱が余分に発生した場合、体温が上がりすぎないように調節する必要が出てきます。その調整のために人間は汗をかきます。
水が蒸発する時、25℃の場合は水1mlあたり0.54kcalほどの蒸発熱(気化熱)が必要となります。「熱が必要となる→周囲から熱を奪う→体温を下げる」という仕組みで体温調整することができるのです。
汗が皮膚に接するアンダーウェアやインナーや皮膚の表面についたままの状態になると、不快感があるだけでなく、蒸れて体温調節の効率が悪くなるため、より汗をかく悪循環に陥ります。
そして、その状態で休憩をとると体温が下がり始め、アンダーウェアやインナー、皮膚に接している水分が残っている場合、気化する時に体温を奪うため、汗冷えや寒気を感じることにつながります。この状態になると、体力とエネルギーを消耗し、注意力も低下します。うっかり足を踏み外したりすると事故につながる可能性もあるので、しっかりした対策が必要です。汗冷えだけでは低体温症になることは考えずらいですが、合わせて雨が降ってきた場合や、冬場に汗冷えした場合は最悪低体温症になる可能性もあります。
低体温症は以下のような状態を示します。気温の変化が激しく、運動強度も激しい登山において、体温調節はとても重要です。
恒温動物の体温は、恒常性(ホメオスタシス)により通常は外気温にかかわらず一定範囲内で保たれている。しかし、自律的な体温調節の限界を超えて寒冷環境に曝され続けたり、何らかの原因で体温保持能力が低下したりすると、恒常体温の下限を下回るレベルまで体温が低下し、身体機能にさまざまな支障を生じる。この状態が低体温症である。
低体温症は必ずしも冬季や登山など極端な寒冷下でのみ起こるとは限らず、濡れた衣服による気化熱や屋外での泥酔状態といった条件次第では、夏場や日常的な市街地でも発生しうる。
軽度であれば自律神経の働きにより自力で回復するが、重度の場合や自律神経の働きが損なわれている場合は、死に至る事もある症状である。これらは、生きている限り常に体内で発生している生化学的な各種反応が、温度変化により、通常通りに起こらない事に起因する。
出典:wikipedia
アウターやミドルレイヤー、トレッキングパンツなどと比べると値段も安くて、これらの汗によるデメリットを大きく解消してくれるのがアンダーウェアです。
特に冬の雪山では汗のコントロールができないと致命的なため、アンダーウェア・インナーには高い吸湿速乾性が重要です。製品のよっては保温性が高いものと速乾性が高いものに大きく分かれます。
登山のアンダーウェアやインナーに必要な機能
登山のアンダーウェアやインナーは、体に密着するようなタイトなシルエットのものが多くなっています。理由は、発汗した際に上記の悪循環に陥らないようにするために皮膚表面の水分を速やかに取り除くこと、また冬や寒冷地の場合は体の周りに無駄な空間をつくらず暖気を逃さないようにすることの2点があげられます。
必要な機能のポイント3点
機能 | 詳細 |
---|---|
①吸湿性・吸水性 | 似ているように見えますが、吸湿性と吸水性は実は異なります。
素材によって、吸湿性が高いが吸水性が低い素材、吸水性は高いが吸湿性が低い素材があります。似て非なる性質ですので、注意してください。 日常生活のようにあまり汗をかかない平常時は吸湿性が高い素材だと着心地がよいですが、徳に夏山の登山など発汗する状況においてはアンダーウェアやインナーは吸水性・吸汗性のほうがより重要になってきます。 関連記事:夏登山の服装 |
②速乾性 | 吸収した水分や汗を生地の表面に残ったまま皮膚に接していると蒸発熱(気化熱)による汗冷えの原因になるため、アンダーウェアやインナーが肌に接する水分を可能な限り速く拡散・蒸散させることが大事になってきます。 |
③保温性 | 特に冬や肌寒い時期の登山に必要な機能です。ウールなどの素材には吸湿した際に発熱する性質があります。発熱した熱を少しでも長く保持するアンダーウェア・インナーを選ぶと冬も安心で快適な登山が楽しめます。 ウールの中でもメリノウールは肌ざわりもソフトで冬登山用のアンダーウェアとして人気があります。 |
[あると便利な機能]防臭性・消臭性
登山は大量の汗をかきます。その分雑菌が繁殖しやすく、臭いが気になるところ。最近の機能性インナーの中には繊維に特殊な加工を施し、防臭・消臭するモデルもあります。また、保温性の点でも性能が高いメリノウールは天然の防臭作用があります。
冬山など寒い時期のアンダーウェアやインナーにヒートテックは使えるか
まずはヒートテックの素材のおさらいです。
35% ポリエステル
33% レーヨン
27% アクリル
5% ポリウレタン
※発売する年度によって構成比率は若干異なります
注目すべきは33%含まれているレーヨンです。レーヨンは「吸湿性と吸水性(吸汗性)が綿同様に高く、吸湿発熱機能がある。速乾性は綿よりは高いが生地に水分を多く保持する分だけ速乾性がポリ系(化学繊維系)に比べると低い」という特徴がある素材です。
※素材についての詳細は登山の服装を参考にしてください。
つまり、あまり汗をかかない状況においては吸収した水分を利用して発熱するため暖かいが、汗を大量にかく状況においては、生地が吸収できる限界まで水分を溜め込んだ後に乾きにくくなり汗冷えの原因になる、ということが起こります。
ヒートテックは冬場の寒さから身を守ってくれる機能があるアンダーウェアやインナーですが、冬山登山などの寒い時期に大量の汗をかくような特殊な状況はヒートテックに不向きな条件となります。
状況に応じて適した素材のアンダーウェアやインナーを選ぶ事が重要です。
夏山登山でアンダーウェアは半袖と長袖のどちらにすべきか
真夏の登山の場合は半袖のTシャツでもよいですが、長袖だと虫や汚れ、怪我、紫外線などから腕を守ってくれて、暑くなったらめくり上げれば事足ります。稜線に出ると強風で肌寒いこともあるので、多くの場面では半袖より長袖のほうが使い勝手がよいです。特に女性は紫外線対策のために長袖必須です。もし半袖のアンダーウェアを着用する場合でもアームカバーを持参して紫外線対策を徹底して下さい。
ただし、高山でも30℃を超すような酷暑で大量に汗をかく場合は半袖もしくはノースリーブのアンダーウェアがよいでしょう。上着に防風効果があるウインドブレーカー(ウインドシェル)を携行していると使い勝手がよいのでおすすめです。
アンダーウェアの下に着るドライレイヤーがトレンド
最近の登山ウェアのトレンドは、アンダーウェア・インナーの下に着るドライウェアです。特に人気があるのがミレーのドライナミックメッシュとファイントラックのドライレイヤーです。
これまではアンダーウェアで肌表面の汗を吸い取って外側に発散させていましたが、ドライウェアはメッシュ状の素材を採用することで徹底的に肌に触れる水分を引きはがすことができるようになっています。
アンダーウェアがいくら高性能の吸湿速乾性を持つといっても、大量に汗をかいた場合は拡散させるには多少の時間は必要です。その間は確かに多少の汗冷え感があります。それすらもなくしてしまうのがドライウェアです。春秋や冬はあまり必要ではないかもしれませんが、真夏はかなり重宝します。
口コミや評判も含めてミレーのドライナミックメッシュで詳細をまとめています。
おすすめの登山向けアンダーウェア・インナー
ARC'TERYX(アークテリクス)のPhase(フェーズ)シリーズ
とにかく高性能なアンダーウェアとインナーを使いたい方はこちらがおすすめ。アークテリクスは高いだけあって、インナーの中では一番高性能ではないでしょうか。機能性はもちろん耐久性も高いので、安い商品を買ってすぐダメになるよりも結果的に安いのでは?と思います。
Phase(フェーズ)シリーズは、ポリエステルとポリプロピレンで合成された「Phasic生地」という生地でつくられています。この2層構造が、肌に触れる面から水分をどんどん吸収し、外側の層がどんどん発散させる機能をもっています。また、繊維には銀イオンがカプセル化して配合されているため、継続して防臭効果を発揮してくれます。
一番薄手の「Phase SL」、中間の「Phase AR」、一番厚手の「Phase SV」の3種類があります。大量に汗をかく夏山や冬山でも大量に汗をかく場合はSL、厳冬期にとにかく保温性が必要な場合はSV、中間のARは1年を通じて活躍するモデルとなっています。
フェーズシリーズは人気モデルのため、基本的に品薄です。
Phase SL[薄手]
メンズ・長袖
Phase AR[中間]
メンズ・長袖
レディース・長袖
Phase SV[厚手]
レディース・長袖ジップ
ミズノのブレスサーモシリーズ
価格が手頃なので、初心者の方などまずは登山用のアンダーウェアやインナーを1枚試してみたいという方におすすめです。こちらも皮膚表面の汗を吸い上げて拡散させる吸湿、吸水速乾性と、抗菌防臭機能があります。
一番薄手の「ライトウエイト」、中間の「ミドルウエイト」、厳冬期まで対応するの「ヘビーウェイト」など様々な厚みの種類があります。1年中使えるライトウエイト、ウインタースポーツにも使えるミドルウエイト、雪山登山向けはヘビーウエイトとなります。
ブレスサーモ ライトウエイト[薄手]
メンズ・長袖
メリノウールアンダーウェア
保温性を重視する秋から冬にかけての登山はメリノウールの生地でつくられたアンダーウェアを着用すると暖かいのでおすすめです。
防臭効果も高いので、意外と上りで汗をかいてしまった場合でもメリノウールであれば臭いも抑えることができて一石二鳥です。寒さと暑さが繰り返すようなコンディションにはまるインナーです。
関連記事:メリノウールとは
おすすめの登山向けショーツ
(シーダブリュエックス)CW-Xシリーズ
下着、ショーツといえばワコールです。その中でもスポーツ用の下着、ショーツは機能性タイツでもおなじみのCW-Xシリーズがおすすめです。ショーツに関しても綿ではなく、通気性を考えて化学繊維の生地を選びましょう。
メンズ
レディース
おすすめの登山向けスポーツブラ
女性専用のアンダーウェアやインナーとして、スポーツブラも直接肌に触れる下着になるため、吸湿速乾性が高い素材を選ぶことが重要です。登山だけでなく、フィットネスやジムなど日常使いできるので運動する方は必ず準備しておきましょう。こちらも下着メーカーのワコールのCW-Xシリーズがおすすめです。
レディース
スポーツブラについて、詳しくはこちらの記事にまとめています。
登山のアンダーウェアは意外と重要
登山ウェアを揃えるとき、最初はついついアウターウェアに目が行きがちですが、快適に行動するためには素肌に触れるアンダーウェアが非常に重要です。アンダーウェアの吸湿速乾性の程度によって快適具合が大きく変わってきます。
費用対効果という点においても、アウターは高価ですがアンダーウェアは数千円で大きな快適性を得ることができるため、まず最初に投資すべきウェアとも言えます。値引きが多い通販をうまく活用しましょう。好日山荘webショップはメンズ、レディース共に登山用アンダーウェアが豊富です。
また、登山用のアンダーウェアを一枚持っていると、実は普段使いとしてかなり使いまくれます。夏を中心としてワイシャツの下やスキーやスノーボードなどウインタースポーツの時など高性能なアンダーウェアは重宝します。それも含めるとよりコストパフォーマンス最高!なウェアです。
こちらも読むとアンダーウェアをもっと理解できます
登山の服装の基礎知識では登山向けアンダーウェアを含む、全体的な説明をしているので合わせてどうぞ。